日曜の夜に観て印象に残っている映画。
黄家衛が師と仰ぐというPatrick 譚 家明 監督の「父子」。
香港でも昨年末に公開されてロングランとなっていた作品。
英語でサブ タイトルの付くことが多い香港の映画は、そのサブタイトルが映画自体を上手く言い得ていることが多い。 「父子」に付けられたサブタイトルは「After this our exile」、直訳すれば、「流浪の果てに」といったところだろうか、“Our”と付いていることで「父子の」と分かるところが英語の便利なところでもある。
映画のフィールドは、香港ではなくマレーシア。
マレーシアにも多く在住する華僑の一家のストーリー。
いい映画は、オープニングの空気である程度分かるけれど、この作品もオープニングのテロップが出た瞬間にそれと分かる独特の空気を持っていた。

強い日差しの下を自転車に二人乗りして過ぎて行く父子。
住んでいるのは、マレーシアに多いリンクハウスと呼ばれる庭付きの家が繋がったタウンホーム。
Cherry楊 演じる母親の様子から、この家が経済的な問題を抱えていることが分かる。
学校に行く子供達とスクールバスの到着。
実はこのあたりから写るもの全てが懐かしく、ストーリーと平行して写る風景に一気に引き込まれてしまった。
マレーシアに移った当初、引越し先のコンドミニアムに移る前に、自分は当時勤めていた会社が出張者や長期滞在のローカルエンジニアのために借りていたUSJというところにあるリンクハウスにしばらく住んでいたことがある。
エリア一帯が日本の宅地開発された街のように画一化された街並み。 角部屋で窓が大きく、実に解放的なところだった。
映画でも表側だけでなく、通常キッチンなどが面している裏側の道が良く登場する。 リンクハウスは表と裏に道が通っており、細く連なる裏側の道は、キッチンや物干しなどを通して、ご近所のコミュニケーションの役目も持っている。
オールドスタイルのマレーシアのスクールバス。
娘が通っていた日本人学校も同じスタイルのスクールバスを使っており、毎日、娘がこれで通っていた。 自分たちのエリアから通う生徒が少なかったせいで、娘が乗っていたのも映画と同じくらいの小型のバスだった。
子供たちの乗った小さなバスが、コンドミニアムの裏側へ回り、ゴルフ場の脇の木々に覆われた道を進んで行くのは、本当におもちゃのようで、マレーシアという土地の大らかさを感じさせていた。
映画は、博打好きで生活を破綻させた父親とそこから逃れようとする母親(楊)。
その父親を演じる香港四天王の一人Aaron 郭 富城のダメ親父ぶりが凄まじい。 博打の借金をやくざに追われ、何かと言えば激高、そして、その思考が完全に破綻している。
家も追われ、どうみても破綻に向かって突き進んでいるとしか思えないストーリー。
そしてその出来のよさがゆえに父親と離れられない息子とそれに依存する父親。
悲劇的な親子の別れと再会。
時代に取り残されたような古い町並み、華僑の経営する旅舎、Te TariやCopi-Oを出すマレーシアンスタイルのカフェ、マレーシア風情を映し出すカメラが素晴らしい美しさ。
マレーの歌姫 シティ ヌルハリザの曲も上手く挿入されていた。
東京、香港を始めとして各地の映画祭で金賞を受賞したのも納得の出来映えだ。
自分が見たのは、Director’s Cut という3時間のヴァージョンだったけれど、ハサミを入れた方がいいなと感じたのはほんの数カット。
自分は、あまり男女のからみのシーンが好きではなく、そういう流れになったなという冒頭だけ、もしくは、そういうことがあったのだなと分からせるシーン割り、そんな構成の方が作品としての質を上げると考えている。そのようなシーンが二ヵ所だけ、ちょっと長いなと感じた。
いずれにしても、近年の香港映画では、断然の出来映え。