穂高にも登らず、蝶ヶ岳にも登らず、焼岳にも登らず……小梨平のキャンプ場にテントを張った僕は、ただただまったりと、山の空気を吸って、山の風を感じ、川のせせらぎを聞いた。
天気が良ければ、遊歩道をてくてくと大正池まで歩いて枯れ木の数を数え、徳沢の草原まで冷えた林檎を食いに行く。
雨が降れば、網に入れ、梓川で冷やした缶ビールをいそいそと取りに行き、テントの中でラジオを聴きながらサラミソーセージをかじった。
ある晴れた日の午前中、明神池で岩魚の泳ぎを眺めているうちに、カナダから来たという栗色の髪の美しい少女と知り合い、片言の英語と片言の日本語でぎこちなく言葉を交わしながら、嘉門次小屋でふたり仲良く岩魚の塩焼きと手打ち蕎麦を食べた。
ちょっと変わったことと言えば、そのくらいのことで、少女が去った後は、また、ゆったりと流れる時間の中に僕は身をゆだねて、山の匂いをかぎ、川のせせらぎを聴きいて、まったりとした一日を過ごした。
そんな 夏の 上高地

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