先週末近くのこと、「カラオケに行くんだけど、お金が少し足りないので、銅鑼湾で渡して欲しい。」、娘からのメッセージを家内が電話で伝えて来た。
卒業式も終わり、先月あたりから何度も行われている各地へと散って行く子供たちのお別れのセレモニーも、そろそろお仕舞い。
せいぜいその地区の学区にある各高校に散らばる程度だった自分たちとは違い、日本全国、またその他の国へと進路が変わる子供たちが、また会える機会も少ないだろうと思い、子供への対応もつい甘くなる。
MTRの出口の階段を上がると、すでに待っていた娘が告げた必要額に、ちょっと上乗せした金額を渡してやった。
三月も終わり、4月からは日本の新学期も始まったので、すでに帰国した子供も多い、たぶんこれが最後のお別れ会だろう。
友人との待ち合わせ場所へ向かった娘を見送って、せっかく銅鑼湾にいるのだからと思い、自分は、いつもの日本書籍の古本屋へと向かった。
毎回するように、古本の棚を端から順に眺めて行き、今回自分が抜き取ったのは、以下の4冊。
吉永みち子「気がつけば、騎手の女房」。
かつて松山厩舎の主戦ジョッキーであった吉永正人(現調教師)婦人が著した自叙伝的競馬ノンフィクション。 競馬ノンフィクションが好きで、そのほとんどは読んでいると自負する自分ではあるけれど、発売された当時のミスターシービー人気もあって(吉永騎手が騎乗していた。)手にして見る気にならず、結局、読まずにいた本でもある。

ざっと目を通してみると、みち子さんは、競馬予想紙「勝馬」や日刊ゲンダイで記者をされていたらしい、登場する馬もシービークインやシービークロス、そしてモンプリンスと自分が没入していた時期と重なる。「勝馬」は自分を競馬へと導いてくれた先達が愛読していた予想紙でもあり、自分もよく見ていた。
取材から入稿、植字、印刷への媒体を作るプロセスは、自分の経験とも重なって、当時のことが思い出される。あまりに多くのことが懐かしく、帰りの電車の中から読み出した。
気にはなっていても、手に取ることの無かった本。 やっと自分に読む準備が整い、読める時が来たのだと思う。
すでに20年くらい前の本ではあるけれど、競馬の社会を上手く伝えている、競馬ファンは必読の本だったと、今になって気づかされた。
もう一冊は、沢木耕太郎「深夜特急・マレー シンガポール編」。
いままでにもう何度読んだか分からない。 マレーシアに居たころ「香港 マカオ編」が懐かしく、丸善で購入して読んだことがある。 そして、香港で「マレー シンガポール編」。 違うところで、離れたところを懐かしんで読む。 自分には、そんな読み方をする本になったようだ。
さらに、矢作俊彦「マイク ハマーに伝言」。
氏のデビュー作であり最高傑作。初めて読んだのは、もう20数年前になる。
ヨコハマ、クルマ、ハードボイルド、文体も素晴らしくカッコいい。 初読のころを思い出して、もういちどゆっくりと読んでみたい。
そして、横山秀夫「半落ち」。
随分と売れたらしい書評でも絶賛されていたミステリー。
映画化もされていた思う。 最近は、本も売れないのだろう、以前に比べ書評も甘くなっている印象があるけれど、本作はどうか?
それにしても、最近の文庫本は活字が大きくなったことに驚く。

子供たちのお別れに際して思い出したタイトルは、もちろん、言わずと知れたハード ボイルドの古典的名作、レイモンド チャンドラーの「長いお別れ」から。
乾いた空気と静けさを感じさせる映画字幕でもなじみの清水俊二氏の訳による文体も素晴しい。
昨年、やはり古本屋で見つけて読み直した。
チャンドラーを読むと、E ホッパーの描いた風景が思い浮かぶ。 共通しているのは、乾いた空気と静けさ。 そして、アメリカ。

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